教師にとって教室はオンステージ
これまで読んできた教育実践者たちの書籍に、
共通して書かれていたのが
「上機嫌でいることの重要性」です。
その当時は、「ふむふむなるほど」という
軽い感じで受け止めていたのですが、
生徒指導困難校で勤務する中で、
私自身も同様の結論に至りました。
たとえ、前日に恋人と別れたとしても、
出かけに奥さんと喧嘩してきたとしても、
我が子が反抗していうことを聞かなかったとしても、
それでも教室に入ったら上機嫌を貫くべきなのです。
考えてもみてください。
ハリウッドの一流の役者たちが、
恋人と別れたからといって不機嫌な態度で
演技をするでしょうか。
むしろ私生活の姿が一切見えないように演じるのが、
一流の役者の条件ではないでしょうか。
私たち教師も、オンステージにおいては
一流の役者に徹するべきです。
ブスッとして教室に入っても、
それでも生徒たちが言うことを聞くのは、
それだけ生徒たちが落ち着いているからです。
しかし、生徒指導困難校では、
そうした気の緩みは命取りです。
演技の下手な俳優が干されて仕事がなくなってしまうように、
役者に徹することのできない教師は生徒や保護者の反発に遭い、
仕事を続けられなくなってしまうかもしれないのです。
少なくとも、そのくらいの覚悟は持って
教壇に立ち続けるべきです。
「指導者である教師がそこまで気を遣う必要はないのでは」
と考える人がいるかもしれません。
大変申し訳ないのですが、
そうしたことを考えているうちは所詮アマチュアです。
あるいは、本当に大変な学校に勤務したことがない
のかもしれません。
生徒指導困難校は、弱肉強食の世界です。
力なき者、学ぶ意思のない者はどんどん淘汰されていきます。
昨日まで机を並べていた職員が、
ある日突然プツリと姿を消すことなど日常茶飯事です。
上機嫌で過ごすのは、何も生徒に気を遣っているから
ではありません。
自分の教師生命を途絶えさせないため。
なんとかこの1年を生き延びるため。
必死に今できることを模索し続けた結果、
教育実践者たちが一様にたどり着いた結論なのです。
「『成功する生徒指導』の原則」の著者、
長谷川博之氏は
「生徒指導は相手の自尊感情を傷つけずに、
どう行動変容させるかということを考え抜き、
実践する営みである」
と語っています。
生徒たちの自尊感情を守りながら、
行動変容を促すためにも、
教師自身が上機嫌でいることは
何よりも大事なのではないでしょうか。
感情を整える技術
とはいえ、聖人君子でもない凡人の私たちが上機嫌を貫くのは、
「言うは易し、行うは難し」なのではないでしょうか。
私自身も人に偉そうなことを言える立場ではありません。
誰かの心無い言葉にカチンときたり、
不快な出来事にイラッとさせられたりすることは
日常茶飯事です。
たとえ、ポーカーフェイスを保っているように見えても、
心の内側がざわついてどうしようもなくなるときもあります。
だからといって、自然に任せていたら
心はどんどんネガティブな方向に引っ張られていってしまいます。
なにしろ、コロコロと定まりなく動き回るから
「心」と呼ぶのですから。
では、私たちは何をすればいいのでしょうか。
まず、感情を整えるのは技術であると割り切るべきです。
技術である以上、練習して習得することが可能です。
その代わり、普段からトレーニングしていないと、
すぐに錆びついてしまうのも技術であると言えます。
だから、普段から上機嫌でいるように練習し続ければいいのです。
すぐにできるのは鏡の前で口角を上げて笑顔を作る練習です。
鏡が近くにない場合は、セルフトークをするのも有効です。
「大丈夫」「できるよ」「さすがだね」など、
自分を元気にするフレーズをいくつか準備しておき、
何度も何度も自分に言い聞かせるのです。
言葉には言霊が宿っているので、
普段からこうしたセルフトークを習慣化していると、
魔法のような劇的な効果をもたらすこともあります。
付け焼き刃でこうした言葉掛けをするのも無駄ではありませんが、
普段から言葉掛けの習慣を持っておくと、
言葉との親和性ができて内面に届きやすくなります。
また、ウォーキングや瞑想、呼吸法などをルーティーンにしておくと、
ストレスマネジメントにもなり、心を整えるのに非常に有効です。
特に呼吸法は、メンタルを整えるのに著効があります。
私もストレスがかかる職場で勤務しているときには、
呼吸法を日課にしていました。
すると、少々大きなストレスがかかっても、
ハラで受け止めることができるようになります。
ただし、1日の終わりには相当に気力を消耗してしまいますので、
呼吸法を行なって心身を整えておかないと
リカバリーが間に合わなくなってしまいます。
それ以外に有効なのが、鏡を使った暗示法です。
やり方は中村天風の書籍に詳しく述べられていますが、
鏡を見ながら「大丈夫」「できるよ」などの
元気の出る言葉をかけておくと、驚くほど元気を補充できます。
簡単に気力を充実させる方法として、極めて有効です。
因果応報
ここまで上機嫌の効用について述べてきましたが、
結局のところ上機嫌でいることの目的は、すべて自分のためなのです。
なぜなら、「鏡の法則」で言われているように、
外側の現実は自分の内面の写し鏡にすぎないからです。
上機嫌のエネルギーを放っていれば、
それが巡り巡って同じエネルギーとなって
自分の元に返ってくるのです。
逆に、不機嫌のエネルギーを放っていると、
どうなるでしょうか。
答えは聞かずとも明らかですよね。
様々な不快な出来事やトラブルとなって、
自分のところに返ってくるのです。
人生とはかくもシンプルにできているのです。
上機嫌でいるのは、生きやすくなるため。
不機嫌でいればいるほど、
人生は複雑で困難な旅路になっていくのです。
畢竟、いい気分でいれば人生は悪いようには
なりません。
私自身、生徒指導困難校での勤務の中で、
上機嫌のスキルを磨いている真っ最中です。
そして、この原則が掛け値なしに使えるものであることを、
日々確認しつつあるところです。
どんな知識やスキル、力量を磨くことよりも、
上機嫌のスキルを磨くことのほうが、
何より重要だとお伝えして筆を置きます。
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