呼吸の鍛錬

フィジカル

空手と息を止める能力

昔、ある空手の達人が興味深いことを書籍の中で述べていました。

「空手において、息を止める能力が非常に重要である。
組手(空手における自由な攻防)で敵の動きを読む能力は、
呼吸力に比例する。
立ち合いにおいては、敵にこちらの呼吸の動きを
悟られてはならない。
ゆえに、敵と対峙したら、息を止めた状態で待つことになる。
呼吸を停止したまま、2分や3分は余裕でいられるくらいの
鍛錬は空手家にとって常識である。」

だいたい、以上のような内容だったと記憶しています。

私もこの話に影響を受け、しばらく入浴中に洗面器に顔を浸して
息を止める訓練を続けていましたが、いつしかやめてしまいました。

二酸化炭素の耐性を高める

ところが最近になって、前述の空手の達人の話を
彷彿とさせるようなある書籍と出会いました。

それがパトリック・マキューン著
「トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法」です。

この本の主旨を一言で述べると、「息の吸い過ぎは体に悪い」
ということになります。

こう聞くと、「ん?酸素って体に大事なんでしょ。
息をたっぷり吸えば酸素も全身に回って、
元気になるんじゃない?」
と考える人が続出することでしょう。

何を隠そう、私自身がそのような考えに
凝り固まっていました。

しかし、本書を読み進めるごとに、
その考えは打ち砕かれていったのです。

本書にはこう書いてありました。

「栄養のある食べ物は確かに体にいい。
しかし、だからといって食べ過ぎればいいかというと、
そうではない。
食べ過ぎれば消化不良を起こしてしまい、
吸収されなかった栄養は排泄されるだけだ。」
と。

血中酸素濃度は、普通に呼吸をしていても
90%を下回ることはありません。

つまり、普通に生活していれば「酸素は足りている」
のです。

むしろ大事なのは血中における二酸化炭素であり、
血液のpH値を保つ働きをしているそうです。

人体にとって有効なのは、
息を吸いすぎず適度に二酸化炭素が血中にある
状態を保つことです。

そして、「息を吸いすぎないためには、
息を止める訓練を積んで二酸化炭素の耐性を高めることだ」
と、
この本では述べられているのです。

脳の働きと二酸化炭素

さらに思い出したことがあります。

ウィン・ウェンガー著「頭は3週間で良くなる」の中に、
「CO2トレーニング」という頭を良くする訓練法が紹介されています。

本書によれば、二酸化炭素の増大が頻繁に起こると、
頸動脈弁が開いた状態になり、多量の血液を脳内に送り、
脳内の循環系統の働きを改善する効果があるのだそうです。

詳しくは述べませんが、本書に紹介されている方法は
普通の社会人にはやや取っつきにくい印象を受けました。

でも、「トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法」にある
息止めトレーニングは、呼吸の改善のみならず、
ダイレクトに頭を良くする訓練にもなっているのではないか

と考えました。

私も一定期間(半年以上)続けてみた結果、
この直感は正しかったと確信しています。

息止めトレーニングの実際

「トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法」には、
たくさんの呼吸トレーニングが紹介されているのですが、
その中から1つだけご紹介します。

その名も「疑似高地トレーニング」です。

このトレーニングは、場所と時間を選ばず
どこでも実践できるのが大きな利点です。

注意点としては、食後2時間以上空けて行なうことです。

理由は、食後は食べたものを消化するために呼吸が増えるため、
エクササイズの効果が小さくなるからです。

(疑似高地トレーニングの方法)

① 歩きながら息を止める

1分間普通に歩いたら、鼻からゆっくり息を吐いて
鼻をつまんで息を止め、中度から強度の息苦しさを
感じるまで息を止めたままで歩く。
そして、鼻から手を離し、鼻で息を吸い、
15秒間は呼吸を最小限にして通常の呼吸に戻す。

② 30秒歩き、それを繰り返す

鼻呼吸をしながら30秒ほど歩き、
鼻からゆっくり息を吐いて鼻をつまんで息を止め、
中度から強度の息苦しさを感じるまで息を止めたまま歩く。
そして鼻から手を離し、最小限の鼻呼吸を15秒続けて
通常の呼吸に戻す。

③ 息止めを8回から10回繰り返す

歩きながら、1分間に1回くらいのペースで息止めを繰り返す。

息を止め、中度から強度の息苦しさを感じたら呼吸を再開し、
最小限の呼吸を15秒続ける。これを歩きながら8回から10回
繰り返す。

初めのうちは、息を止めたまま20歩から30歩くらいしか
歩けないと思います。

しかし、訓練というのは怖ろしいもので、
しばらくすると息を止めたまま80歩から
100歩は歩けるようになる
、と著者は言います。

ちなみに私はというと80歩はいけますが、
100歩はまだ無理です。

最近はこのエクササイズにすっかりはまってしまって、
仕事帰りに近所の公園に立ち寄り、
息止めウォーキングをしてから帰るのが日課となっています。

健康も増進するし、精神力も鍛えられるしで、本当にオススメのトレーニングです。

呼吸停止と潜在意識

息止めを行っていて、中度の息苦しさを耐え忍んでいると、
強度の息苦しさがやってきます。

さらに、限界ギリギリまで息を止めていると、
全身の細胞がもがきながら「息を吸わせてくれ」
無言のメッセージを突きつけてきます。

まさにその瞬間、潜在意識の扉がパカッと開きます。

この時に、自分の目標や願望を「単語」でズバッと
潜在意識に叩き込むのです。

ただし、あまりに効果がありすぎるので、
冷やかし半分や冗談で行なうのはやめておいた方が賢明です。

ニーチェの言葉に、「怪物と戦う者は、その過程で
自分自身も怪物とならぬよう気をつけなければならない。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」
とありますが、たわむれに潜在意識とかかわるのは大変危険です。

人を傷つけるようなことを願うと、
遠からずあなたを傷つけるような出来事となって返ってきます。

その覚悟がないのであれば、やめておいた方が無難
とだけお伝えしておきます。

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